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大阪地方裁判所 昭和36年(モ)290号 決定

申立人 大守円吉

右訴訟代理人弁護士 東中光雄

被申立人 西埜幸治郎

主文

本件申立を却下する。

理由

本件申立の理由の要旨は、右当事者間の当庁昭和三三年(モ)第三二九六号強制執行停止決定申立事件について、申立人は保証として金六万円を供託していたところ、昭和三五年一一月一五日申立人敗訴(控訴棄却)の判決が言渡された。そこで、申立人は右控訴審の判決に対し上告を提起すると共に、当庁昭和三五年(モ)第三二七〇号強制執行停止決定申立事件において、改めて金八万円の保証を立てた上強制執行停止決定を得た。従つて、前記控訴提起による強制執行停止決定につき申立人の立てた保証金六万円は、担保の事由が消滅したものであるから担保取消の決定を求める、というにある。

そこで考えてみるに、本件記録によれば、申立人は、被申立人を原告、申立人を被告とする阿倍野簡易裁判所昭和三二年(ハ)第一三八号建物収去土地明渡請求事件の申立人敗訴の判決に対し、当庁に控訴を提起(当庁昭和三三年(レ)第三〇四号建物収去土地明渡請求控訴事件)すると共に、当庁昭和三三年(モ)第三二九六号強制執行停止決定申立事件において、保証として金六万円を供託した上右第一審判決の強制執行停止決定を得たが、控訴審においても申立人敗訴の判決が言渡されたので更に上告を提起し、記録の存する当裁判所に右第一、二審各判決の強制執行停止決定を求め(当庁昭和三五年(モ)第三二七〇号強制執行停止決定申立事件)、保証として金八万円を供託した上右停止決定を受けたことを認めることができる。

ところで、右上告提起による強制執行停止決定が、控訴審のみならず第一審判決の執行をも停止するものであることは勿論であるが、このことから当然に、右上告による執行停止決定において申立人に立てさせた保証が、執行の停止された全期間(すでに経過した期間を含めて)の損害を担保すべきであるという結論を導くことはできないばかりか、そもそも、控訴提起による第一審判決の強制執行停止決定に基き、適法に供せられた保証が有効に存続して、右停止決定により相手方に生ずることあるべき損害を担保し、将来の担保権行使の場合の保証機能を優に保持して所期の目的を果しているにも拘らず、上告提起による強制執行停止決定において、単にさきの担保がその担保期間が満了したというだけの理由(担保期間が満了しても被担保債権の存否は将来においてのみ決定せられるのであるから、担保機能を失う筈がないことは前述の通り)で、それを取消、変更するわけでもなく、これと重畳的に、又は交替的に、控訴審判決のみならず第一審判決の執行停止期間中の損害をも担保する趣旨で保証を立てさせて、結局既に提供せられた担保を無意味にするような取扱を正当化する根拠を見出すことは困難である。

そして、この取扱を正当視することは、さきの担保がその実効を収める機会をも常に否定する結果となり、下級審における担保供与命令の本旨にも反するであろう。

当裁判所が、前記上告提起による控訴審判決の強制執行停止決定において、申立人に立てさせた金八万円の保証も、前述の見地から、右停止決定により今後新たに被申立人に生ずることあるべき損害のみを担保する趣旨でその額を決定したものと認められ、別異の趣旨に解すべき事由の存在は認められない。従つて、その額が第一審判決の強制執行停止決定において、申立人に立てさせた保証額(金六万円)よりも増額されていることは、右見解に何ら影響を与えるものではない。本件における程度の担保額の多寡によつて、第一審判決の執行停止に基く損害をも含めて担保しているか否かを判別することは、何人をも納得させるに足りる根拠のないものといわざるを得ない。

よつて、当裁判所が、申立人の上告提起によりなした前記強制執行停止決定につき申立人に保証を立てさせた事実は、第一審判決の強制執行停止決定において、既に供せられた担保を不要ならしめるものではないから、これを以て民事訴訟法第一一五条第一項所定の「担保の事由止みたる場合」に該当するものということはできず、結局申立人の本件申立は理由がないからこれを却下することとして主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 宮川種一郎 裁判官 奥村正策 島田礼介)

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